キャプテンのプレゼン

10年くらい前の話。

とある事情で仕方なく独立することになりまして、営業とか顧客作りとか、そういうやり方を手探りで学び始めた頃でした。

そんな時、高校時代のサッカー部の友人の結婚式に行く機会があったのですが、その結婚式の中で「顧客を一瞬で獲得する」意外な方法を目の当たりにしました。

教科書的なビジネス書で普通に起業や営業の勉強をしていた僕にとっては、あまりにもそれが衝撃で、その時の気づきはその後の仕事のやり方に結構影響を及ぼしました。

今回は改めてその時のことを思い返し、教訓となったポイントを整理して備忘録的に記載しておこうと思います。

役者を目指す30代フリーターの元サッカー部キャプテン

新郎の友人として、サッカー部の仲間5人くらいで参加しました。

新郎は東京で働いていたので、僕たちは大阪から新幹線で東京で向かいます。みんな久々なので、同窓会みたいなもんですね。

30代半ば、友人達はそこそこ立派な会社に勤めていて中堅社員として活躍しています。

そんな中、元キャプテンのS君は役者と弁当屋のアルバイトを掛け持ちするフリーターという独自路線を進んでいました。

すっかり大人になっていた新郎

結婚式の会場は、割と会社関係者が多く、結構きっちり目の雰囲気が漂っています。

新郎は元々ちょけた感じでムードメーカー的な存在だったのですが、

久々に見る彼にはそんな様子はまったくなく、どうやら会社の中でのイメージは真面目できっちり仕事ができるタイプ。

それなりのポジションにもついているようでした。

関西組は僕たちだけで、どうもアウェイ感が漂う中、披露宴がスタート。

会社のお偉いさんの挨拶があり、乾杯。

会場の雰囲気も徐々に賑わってくるなか友人代表として我らのキャプテンS君がスピーチに立ちました。

話術で会場を支配

リーダーシップが抜群で、もともと喋りもうまかったのですが、役者の仕事を通じてプロレベルとなったそのスピーチは圧巻。

正直何を話したのかは覚えていませんが、社内では真面目な印象の新郎について、高校時代のエピソードを紹介し、なんだかんだと面白おかしく話していました。

会場はもう大爆笑。特に会社のお偉いさんたちが座っている円卓は大盛り上がり。新郎の意外な一面が晒されたことは、新郎にとってもこんなに面白い一面もあるんだという好意的な印象にもつながったと思います。

で、その会社関係者の円卓では「あのスピーチをしている彼は何者なんだ」という様子でざわつき始めます。

味も値段もわからない弁当がこうして売れる

スピーチの後、会社の関係者の円卓に呼ばれたキャプテンのS君。

役者を目指しているがまだ売れていないので弁当屋でも働いているという情報が伝わったようです。

そこで役員レベルの人が

「それならうちの会社に弁当を入れてくれないか」と。

「えっ!?」

S君は弁当の売り込みは一切していないし、そんなつもりもありません。

ただ単に役者の端くれとして、会場を盛り上げると言う一心でつくりあげたスピーチだったのです。

それなのに、弁当を売ってくれと。結果的にプレゼンになってしまったわけです。

小さな弁当屋で個人相手に弁当を売っているレベルのお店が、突如として法人向けに一定数量の弁当をしかも安定的に納入できるチャンスを得たのです。(従業員の昼食としての弁当。)

S君が弁当屋を始めた頃、僕も買いに行って食べたことがあるのですが、

「ちょっと高いなぁ、セブンイレブンの弁当の方がえーわー」みたいことを言ったら、やけに反発されたことがありました。

その時はいかにこだわった材料を使っているかとか、作り方がどうとか、説明されましたが、だからといって別に買いたい気持ちにはならなかったことを覚えています。

でもその弁当が売れようとしている。味もわからない。素材や作り方のこだわりも何も説明していないのに。

誰から買いたいか。物ではなく、人によって物が売れるということを思い知らされます。

ということは、これから僕が磨くべきことは商品、サービスではなく、「自分自身」??

売る側の心構えに気づく

S君も急にそんなことを言われたので、びっくりしていたし、そもそも役者を本業にしたいのでその弁当の話はそこで終わりました。大阪と東京という物理的な問題もあったとは思います。

とはいえ、もしS君が「なんとか弁当の売り上げを拡大していこう」とか、「人脈を広げるチャンスにしよう」ってことを考えていたら、この話は、大阪にも支社はあったし、何かに繋がっていく可能性はあったと思います。

今回の教訓

独立したての僕にとって、この一連の流れは2つのことに気づかせてくれました。

1、商品やサービスにこだわるのではなく、自分自身や売り方にこだわる。

2、チャンスはいつ来るかわからない。常にその準備をしておく。

とはいえ、いまだにこの教訓をいかせているとは言えませんが、このことは忘れずに事業の成長を目指していきたいと思います。